Foodle
.
【居酒屋 ちょーちょ】
火のぬくもり、人のぬくもり。
仙台の夜を知る人なら、きっと誰もが名前を挙げる居酒屋がある。『ちょーちょ』──店内はいつも満席、電話も鳴りやまず、席にありつけるかはタイミング次第という人気店だ。その魅力は、料理の美味しさはもちろん、空間全体に流れる温かさと心地よさ。その中にあって、この店の象徴とも言えるのが、囲炉裏の存在だ。
カウンター中央に構えられた囲炉裏では、串を立ててじっくりと焼かれる魚たちが、静かにその香りと美味しさを膨らませていく。仙台は、炉端焼き文化の発祥地とも言われる場所。その文脈を意識したかはさておき、『ちょーちょ』がこのスタイルを大切に守っているのは偶然ではないだろう。ぜひ味わってほしいのが「とろ鰯の塩焼き」。脂がじゅわりと染み出し、名前に偽りなく“とろける”一尾。一人一本、いや二本でも足りないと思わせる逸品。食べ終わった骨は素揚げにして再提供。最後の最後まで美味しく、無駄なく。
料理は冒頭から手を抜かない。この日のお通しは「海老真薯の蓮根挟み揚げ」。熱を通しすぎず、ふわっとした真薯の中に海老の甘さ。サクッとした蓮根の食感もよく、ひと口目から心をつかまれる。
「お造り」は、胡麻勘八、本鮪、金目鯛、初鰹、浜茹で蛸、とろ鰊の六種盛り。どのネタも素材の魅力を引き出す工夫が光る。脂の強いとろ鰊にはガリを添えるなど、単に“醤油でどうぞ”では終わらせない、細やかな設計が嬉しい。
「アジフライとポテトサラダ」は同じ皿に並べられるが、それぞれが独立した魅力を放つ。アジは小骨を丁寧に取り除いたふわふわの仕上がり。衣の立ち具合が美しく、火入れの技が光る。
「茄子の揚げ浸し」は温度感をおさえ、じんわりと出汁が染みる常温の設え。優しさと落ち着きを感じる一品。
そして名物「土鍋炊き... More
.
【西欧料理サヴァカ】
一皿ずつめくる、静岡の狩猟図鑑。
静岡県・菊川市。山に囲まれたこの静かな町に、全国の食通が密かに通う一軒がある。
それが、『西欧料理サヴァカ』。ジャンルで言えばフランス料理。だが、その実態は“ジビエ”というキーワードにおいて、日本でも類を見ない圧倒的な深度を誇る料理店だ。厨房と猟師との信頼関係に支えられ、地元の山で仕留めた獣たちは、ここで初めて「料理」として命を輝かせる。肉を活かすための低温調理、香りを立たせるスパイス使い、脂や血のニュアンスまでも計算されたソース──ただ珍しいだけじゃない、“旨いジビエ”をここまで成立させた店が、静岡の山あいにあることに、まず驚かされる。
テーブルに置かれたリストには、猪、鹿、鴨などの定番に始まり、ツキノワグマ、ヌートリア、ハクビシン……と、山の住人たちがずらりと並ぶ。もはや狩猟図鑑。でも驚くべきは、このリストが単なる話題性ではなく、きちんと“味”として構成されていることだ。しかも、“ジビエはクセが強い”──そんな常識を優しく覆す。きっと全てが“食べ頃”を見極めて仕留められ、しかるべき処理を経て、厨房に届くのだろう。きめ細かい繊維と脂の香り、そして野性味の奥に潜む複雑な旨味が広がる。
それでは、さっそく静岡の森が織りなすフルコース、じっくりご覧いただこう。
「ヒヨドリ」
1つ目のアミューズは、ソテーしたヒヨドリ。脂の旨みに玉ねぎのコクやスパイスを重ねる。
「雉」
2つ目のアミューズは、雉の焼き霜入りの蕪スープ。コンソメのジュレやレモングラスのオイルを重ねる。仕上げに、蜂の巣状の竹墨のジャガイモを乗せて、ユニークに炭の香を感じさせる。
「鹿、猪、鴨」
最後のアミューズは、ジビエが共演したシュー・ファルシ。鹿はレバーで、ムースは猪と鴨、ブロック状に乗せたのは鹿タン。
「猪、鹿、キジバト」
ジビエシャルキュトリーのサラダ仕立て。猪のハート、ヤークトブルスト、ブータンノワール、鹿のソーセージ、キジバトのコンフィ。バルサミコ酢の泡を重ねて。ジビエの1つ1つの個性ももちろんだが、野菜のクオリティーも高い。
「野うさぎ、ハクビシン」
野うさぎは野生味があって、ハクビシンは脂の甘味が特徴。特に後者は、上質な豚って感じ。付け合わせにはタラの芽やこごみのフリット、アミガサタケで作ったというソースが美味い。山の恵み達の再会。
「真鴨、カルガモ」
前者はロティに、後者はコンフィに。檜の香りの胡椒を添えて、森の中へと誘う。
「ヌートリア」
トマト煮込みのソースのパスタ。手打ちでつるんとした口当たりのいいパスタ。ヌートリアの柔らかい肉質とクリアな味わいは鶏のイメージに近い。
「鹿、仔猪」
仔猪(右)の脂の旨みとどんぐりのような香ばしい香りが印象的。まるでイベリコ豚のよう。
「アライグマ、ツキノワグマ」
アライグマ(左)は煮込みで、クマ(右)はロティと煮込みで。クマの脂って本当に甘くて美味しいなぁ
「猪」
ほろ苦い蕗の薹のご飯と猪のガランティーヌの組み合わせ。
静岡の山に息づく命が、ここ『サヴァカ』では料理として再構築され、舌の上で物語を紡ぎ出す。それぞれの獣たちに寄り添う技術と発想、そして驚くほどの食べやすさに、ただただ脱帽。ジビエの概念を更新する体験が、菊川のこの地で待っている。山と料理人がつながると、こんなにも豊かな世界が広がるのか。ご馳走様です。
... More
.
【おにく 花柳】
最高の肉はどう食べるべきなのか?
肉好きなら一度は訪れるべき店、それが『おにく花柳』。
人形町時代から名を馳せた肉割烹の名店が、新天地でさらに進化を遂げている。ここでは、肉を単なる豪華な食材として扱うのではなく、いかに最高の状態で味わってもらうかに徹底的にこだわる。そのために選ばれるのは、最高級の神戸牛。そして、その旨さを最大限に引き出すための、計算し尽くされた技法。そのこだわりが詰まった一皿一皿を追ってみよう。
まず登場したのは「たんと蕗の薹豆腐」の白味噌仕立て。ただの、タンと豆腐の共演と思うなかれ。スプーンを入れた瞬間、タンがほぐれるどころか、豆腐よりも柔らかいことに驚く。白味噌の優しい甘み、蕗の薹のほろ苦さがアクセントになり、口の中でとろけるタンの脂と一体化する。肉の概念が一瞬で変わる一皿だ。
そして「握り鮨」。シャリの上には、刺身のように美しい肉。噛むと、驚くほどしっとりした舌触り柔らかさに、肉なのか、魚なのかとジワッと脳がバグっていく。しかも、この赤酢の効いたシャリと肉の一体感は、完全に寿司の文脈。魚を凌駕するレベルで仕上げられた肉の仕事に、思わず唸る。
人形町時代の名作も健在。「カツサンド」「シチュー」など、当時の人気メニューはアップデートを重ね、より完成度を高めている。定番であった刺身も「“但馬玄”生姜醤油」として登場。肉の甘みを生姜醤油がキリッと引き締める。余計なソースや濃い味付けを施すのではなく、肉そのものの旨味を最大限に生かすスタイルがここに貫かれている。
肉料理の真骨頂とも言えるのが、「シャトーブリアン」。ここでも肉そのものの味を前面に押し出しつつ、野菜が巧みにバランスを取る。早堀り筍と万願寺唐辛子に施した塩気やアクセントを野菜側に持たせることで、肉の旨さが際立つ構成。余計な装飾はなし。ただただ、肉と向き合う。
そして2種類の「しゃぶしゃぶ」のアプローチ。一つ目は、新わかめと胡麻ポン酢、浅葱、黒七味の組み合わせ。肉の脂と海藻の風味が絶妙に溶け合い、ポン酢の酸味が全体を引き締める。二つ目は、三関せりと生卵。香り高いせりのシャキシャキ感、濃厚な卵のコク。しゃぶしゃぶの概念を変えてくる。
締めには、「テールと蕗のご飯」。肉の旨味を吸ったご飯は濃厚で、それでいてクドさはない。しみじみとした味わいで、肉尽くしのコースのフィナーレにふさわしい。そして、もう一つの締めとも言える「カレー」。これも人形町時代からの定番で、肉の旨味が凝縮した濃厚な仕上がり。デザートには、「和三盆あいす 苺」。甘さ控えめの上品な和三盆の風味に、苺の酸味が心地よい余韻を残す。最後まで計算されたコースだ。
この店を支えるのは、シェフの圧倒的な技術と感性、そして、肉を知り尽くしたプロフェッショナルな視点。ソムリエ資格も持ち、ワインとのペアリングも完璧。ウォークインのセラーが見える店内は、まさに肉を楽しむための舞台にふさわしい。『おにく花柳』は、単に高級な肉を食べる店ではない。肉を極め、肉の可能性を探求し続ける場所だ。人形町時代からの歴史と、そこからの進化。その両方が詰まったこの一軒、肉好きなら絶対に見逃せません。
.
【IL PIZZAIOLO(イル・ピッツァイオーロ)】
ピッツァ職人という生き様を、その一枚に。
『IL PIZZAIOLO(イル・ピッツァイオーロ)』──その名は、イタリア語で“ピッツァ職人”を意味する言葉そのもの。つまり、特定の名前ではなく、職業そのものを名乗ってしまう潔さ。肩書きも誇張もない、まっすぐな自信と素朴さを感じさせる屋号だ。場所は北仙台。飲食激戦区の中心から少し外れたこの地にあって、全国屈指の人気を誇るピッツェリアである。
その人気を支えるのは、職人・千葉氏の研ぎ澄まされた感性と、石窯を操る火の技術。「マルゲリータDOC」は、この店の真価を知るには最適な一枚。見た目からして軽やかで、持ち上げた瞬間にその印象は確信へと変わる。耳の部分がほとんど感じられないほどの軽さで、薄生地のピッツァは“かるっ!”という擬音がぴったり。生地の中にはしっかりと空気を抱え、表面はパリッ、中はふわっと。この火加減は、やはり石窯の賜物。そこに重ねられるのは、芳醇なオリーブオイル、溢れんばかりのチーズ、じゅわっと甘いミニトマト。コクと香りが一体となり、どこを切っても完成度の高いひと口が広がる。
「クアトロフォルマッジ」は一転、チーズが主役の濃厚な一枚。ゴルゴンゾーラ、リコッタ、モッツァレラ、グラーナの四重奏は、塩味、甘味、ミルキーさ、旨味が複雑に絡む。ワインと合わせればそのポテンシャルが開花し、チーズ好きにはたまらない一皿となる。
石窯はピッツァだけにあらず。「赤鶏のもも肉の石窯焼き」は、皮目をパリッと焼き上げつつ、中は驚くほどジューシーに。ナイフを入れた瞬間に溢れる肉汁、そのひと滴に石窯の火力と技術の集約を見る。
一見、装飾のないストレートな店名。しかしその潔さの奥には、ピッツァイオーロという仕事そのものへの誇りと信念がにじむ。『イル・ピッツァイオーロ』は、技術と感性をまっすぐにぶつける、職人の生き様が焼きついた一軒でした。ご馳走様です。
... More
.
【お魚処 うおとも】
ふわサク!このアジフライ、反則!
千葉県山武市松尾町。駅から少し離れた静かな通り沿いに、控えめな佇まいの『お魚処 うおとも』はある。立地はいたって日常的。観光地の喧騒も、漁港の臨場感もない。けれど、店の前を通れば、木の看板に掛かった風合いのある文字、紫の暖簾、年季の入ったベンチ──そこには「地元に根ざす店」の空気が確かに漂っている。
暖簾をくぐれば、待ち受けるのは真っ直ぐな魚料理の世界。まず注文したのは看板メニューとも言える「アジフライ定食」。皿の上にはふわっふわに仕上げられた鯵のフライが二枚。衣はサクサクであり、油っこさも皆無、箸で割れば湯気とともに香り立つ鯵の旨味。個人的にはやっぱり「醤油」派。ソースやタルタルも添えられるが、あの香ばしさに一番寄り添うのは、やっぱり醤油のキレだと思う。
小鉢にも抜かりなし。この日は「蕗」と「筍」。それぞれにほんのりとした甘さとだしの深みがあり、春の訪れをそっと告げるような味わい。こういうところに店の誠実さが滲み出る。ご飯は粒立ちがよく、赤出汁の味噌汁は深いコクを湛え、定食としての完成度が高い。
もうひとつ、ぜひ味わってほしいのが「アジの味噌たたき」、いわゆる「なめろう」。千葉、特に房総半島では言わずと知れた郷土料理だが、ここの一皿も秀逸。粗めに叩かれた鯵の食感が残りつつ、味噌と薬味が優しく溶け合う。口に含めば磯の香りが広がり、心地よい粘り気と旨味が後を引く。
『お魚処... More
.
【No.4】
東京の真ん中に、こんな朝がある。
市ヶ谷の駅から少し歩いた先、四谷方面との狭間に突如現れる開放的な空間。大きなガラス面、木々の揺れる広場、テラス席の笑い声。『No.4』は、そんな都市の喧騒と距離を置いた、ちょっとした“別世界”にある。ここは、大都市・東京において奇跡的に“余白”を手に入れたような場所だ。開店と同時に長い行列。朝ごはんというより、ここで過ごす「朝の時間」が求められているのだろう。
注文したのは「フレンチトーストコンボ」。皿の上には、甘さをたっぷりと湛えたフレンチトースト。そのひたひた感はパンの中心までしっかりと卵液が染み込んでおり、フォークを入れるとじゅわっと香りが立つ。甘さはしっかりあるが、そこに添えられたベーコンの塩気がアクセントとなり、“甘×塩×ボリューム”のバランスが、朝のテンションを自然と上げてくれる。
パンはもちろん自家製。ベーカリーとしての顔も持つこのお店の真骨頂は、やはり小麦の扱いにあるのだろう。バゲットやクロワッサンを求めて立ち寄る客も後を絶たず、イートインとテイクアウトの文化が共存する光景は、どこかヨーロッパの街角を思わせる。スタイリッシュというより、“自然体でセンスがいい”。お洒落すぎないからこそ、誰にとっても気取らない朝になる。都心で一番幸せな朝食を食べられる場所──そんな言葉がふさわしい。
『No.4』、朝を過ごす理由を与えてくれる場所です。ご馳走様でした。
... More
.
【虹屋ミミ】
富士宮やきそばって、何だ!?
B-1グランプリ初代王者としてその名を轟かせたご当地グルメ。定義としては、蒸し麺を使い、ラードで炒め、肉かす(ラードを搾った後の副産物)や魚粉を添えるというスタイル。中でも最大の特徴はその麺。製麺時に加水率を抑えることで、炒めても伸びず、もっちりとした独特の弾力が残る。これは、富士宮の製麺所から始まったものだそう。もともとお好み焼き屋が多かった土地柄も、この焼きそば文化の土壌を支えてきたのだろう。
現在、富士宮市内には最盛期より数こそ減ったものの、今なお約90店舗が焼きそばの味を守り続けているという。今回はその中から、『虹屋ミミ』を訪問。かつて「虹屋」という名で営業していたお好み焼き屋の流れを汲みつつ、現在はラーメン屋のようなカウンタースタイルで焼きそばを提供するユニークな一軒だ。ちなみに「ミミ」は、ご主人のお姉さんの愛称。お姉さんに継いでほしいという願いから屋号に加えたそうだが、最終的に継いだのは弟さんというオチもまた微笑ましい。笑
「ミックス焼きそば(イカ・肉・卵入り)」
麺は定義どおり、加水を抑えたむっちり食感。噛むほどに跳ね返すような弾力が心地よい。味付けには酸味のある濃いめのソースが使われており、ラードの香ばしさと魚粉の旨みがその背後を支える。さらに、イカと豚肉の旨味、卵のまろやかさが交わり、口の中で一つの完成形を描く。これは確かに初代王者にふさわしい味わい。
店内には海外の観光客の姿も目立ち、聞けば、富士山観光のついでに立ち寄る人も多いのだとか。町の味がこうして世界にじんわりと広がっていく──そんな瞬間に立ち会えるのも、旅の醍醐味。ご当地焼きそばは数あれど、ここ富士宮には、焼きそばが根付くだけの確かな理由がありました。ご馳走様です。
... More
.
【Chillmatic(チルマティック)】
パティとパストラミの、分厚い誘惑。
渋谷駅から少し離れた裏路地。賑やかな通りを一本逸れたその場所に、静かに存在感を放つバーガーショップがある。その名は『Chillmatic(チルマティック)』。店名は「chill(くつろぎ)」と「illmatic(最高にヤバい)」をかけ合わせた造語とのことだが、その響きの通り、ラフでクールで、どこかヒップホップ的な空気が漂っている。
バーガー&ビストロというコンセプトのもと、料理も空間も“ヤバくてチルい”。看板メニューは、もちろん「Chillmatic... More
.
【フライデイ】
気分はいつでも“フライデイ”!!
フライデー──1週間で一番うれしい響きを持つ言葉。
でも、今日の“フライデイ”は、曜日の話じゃない。もちろん、芸能人たちが恐れるあの雑誌の話でもない。千葉県市原市にある食堂、『FLYDAY』のこと。ここで言うフライは、“揚げ物”のフライなのだ。市原市内の幹線道路沿いに現れた、2023年オープンのフライ専門店。モダンなロゴが掲げられ、漂う油の香りが、自然と胃袋をくすぐる。金曜じゃなくても、カラッと気分が上がる──そんな場所。
今回選んだのは「ミックスフライ定食」。
定食スタイルで供されるフライたちは、どれも堂々たる存在感を放っている。主役のアジフライを筆頭に、鶏ササミのフライ、そして地元・市原産の野菜たち。南瓜や薩摩芋、さらには姉崎大根を使った変化球まで並ぶ。特に姉崎大根のフライは、出汁をたっぷり含んだやさしい甘みが印象的だ。使用しているのは贅沢にも米油。粒子の細かい衣をまとったフライたちは、口に入れるとサクサクと砕け、驚くほど軽やか。揚げ物なのに重たさを感じないこの仕上がりは、専門店ならでは。
中でも主役を張るのが、もちろんアジフライ。江戸前近海で獲れたアジを三枚におろし、骨を丁寧に抜き取る。開きではなくフィレ状にして揚げられた身は、ふっくら肉厚。白身魚のフライにも似た上品さすら漂わせる。
卓上にはソース、醤油、タルタルソースが揃うが、まず「塩で」と推奨される。素材と技術への自信の表れだろう。実際、塩を軽くふって頬張ったアジフライは、素直にうまい。魚の甘みと衣の香ばしさが、ダイレクトに伝わってくる。さらに見逃せないのが、添えられた小さなカレー。しっかり煮込まれたコク深いカレーは、脂に疲れた口をリセットし、また箸を進ませる仕掛け。定食にカレーを添えるなんて、なんとも“フライデイ”らしい遊び心だ。
“フライデイ”の定食を食べれば、きっと何曜日でも気分が上がる──そんな幸福がここにはありました。ご馳走様です。
... More
.
【鮨 波やし】
寄せては返す、鮨の波。
高円寺の静かな通り沿い。そこに、ひっそりと暖簾を掲げる『鮨 波やし』がある。
2017年に初訪問して以来、またいつかと願っていたが、久しぶりにその願いが叶った。世間で「安くて美味い寿司はないか」と聞かれるたびに、ふと思い出す一軒。派手な演出もなければ、SNS映えを狙うわけでもない。ただひたすら、誠実に、真っ直ぐに、鮨と向き合う空気がここにはある。品数は多い。しかしどれも過剰な自己主張はせず、寄せては返す波のように、静かに心に余韻を残していく。『波やし』──その名前がこれほど似合う場所もないだろう。
7年の歳月を経ても、その魅力は少しも色褪せない。ここには、時代に流されない強さがある。
まずは、つまみから。
「本鮪、青柳、蛍烏賊、牡丹海老」
「稚鮎、鮪ハラミ、平貝の柱、ひも」
「茶碗蒸し」黒ムツ、帆立、ズワイ蟹
「毛蟹」
「カイノミ」
「カリカリ梅と沢庵」口直し
「蟹味噌炒飯」酢飯ベース
「爆弾」中落ち、納豆、沢庵、烏賊、いくら、海苔。まさに爆弾。
ここから、握り。
「中トロ」
「平目」昆布締め
「小肌」
「赤貝」
「漬け」
「鰯」
「白海老」
「墨烏賊」雲丹乗せ
「穴子」
「巻物」鯵の紫蘇焼きととろたく
「北寄貝」
「黒むつ」
「味噌汁」
『波やし』の魅力を、コストで語るのは本意ではない。だが、これだけの品数とクオリティを、この価格帯で楽しませてくれる鮨屋は、そう多くない。言葉を尽くすよりも、ただ一言、「ありがたい」と伝えたくなる。そりゃ、予約が困難になるのも当然だろう。7年の歳月が証明している。流行りに乗らず、奇をてらわず、ただ良い鮨を、良い空気と共に届ける。その誠実な営みが、今日も『波やし』を作っているのだ。
ご馳走様です。
... More
