Foodle

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【中屋パン】

名古屋・今池の駅前、人の往来が絶えず、生活と娯楽が交差するこの街で、地元の人々に80年以上愛され続けている『中屋パン』。店先に掲げられた「おいしさ一番」という言葉が、そのままこの店のスタンスを物語る。特別な演出や主張ではなく、日常の中で繰り返し選ばれること。その積み重ねこそが、この店の輪郭を形作っている。

ラインナップは、王道のパンや惣菜パンが中心。揚げ物、ソーセージ系、甘味系と、誰もが一度は手に取ったことのある顔ぶれが並ぶ。技法自体はオーソドックスだが、油の使い方や具材のボリュームに意識が向けられており、特に揚げ物は軽さよりも満足感を重視した設計。

中でも一番人気の「あんドーナツ」。表面の砂糖のざらつき、しっとりとした生地、粒感を残した餡子というシンプルな構成。揚げた油のコクと甘さがしっかりと乗る、食べ応えのある仕上がりで、この店の日常使いを支える一品だ。

「あらびきフランク」は、ふんわりとしたパンに対して、パリッと弾けるソーセージのコントラストが明快。肉汁の広がりが、シンプルな構成に確かな満足感を与える。「ビーフカレーパン」は中辛設定で、牛肉、玉ねぎ、人参、じゃがいもがゴロっと入り、具材の存在感が際立つ。揚げた衣の香ばしさと、どこか家庭的なカレーの味わいが重なり、安心して食べ進められる仕上がりだ。

長年この場所で積み重ねられてきた街の味が、しっかりと息づく。流行や独自性を強く打ち出すのではなく、日々の中で自然に選ばれることを前提にした味づくり。その背景には、この街で必要とされ続けてきた理由が確かにある。店先に掲げられた「おいしさ一番」という言葉に偽りはなく、その価値は日常の中でこそ実感できる。ご馳走様でした。
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⁡【はた善】

青森市新町の夜に、青い暖簾を掲げる『はた善』。26年目を迎えるこの店は、地元の生産者や仲卸とのつながりを生かし、津軽海峡をはじめとした鮮魚、八甲田牛、旬の素材を届ける居酒屋だ。観光客にとっては青森の味覚を一気に学べる場所であり、地元の人にとっては普段着のご馳走に出会える場所。なるほど、これは愛されるわけである。

料理の軸は明快だ。地元の魚介を中心に、素材の力を素直に見せる。刺身、煮付け、焼き物、味噌焼き、バター焼き。手法は王道だが、観光地的な説明過多に寄せすぎず、大将の青森話とともに皿が進むところに魅力がある。日本酒はキンキンに冷えた竹筒で登場し、青森の銘酒と海鮮の組み合わせを気分から盛り上げてくれる。こういう演出にみな弱い。

「本まぐろ刺身」は、青森と聞いて真っ先に期待してしまう主役のひとつ。脂の甘み、赤身の酸、口どけの余韻がきちんと揃い、青森に来たぞ、という気分を最短距離で満たしてくれる。

「煮しゃこ」は、剥く体験まで含めて楽しい。殻と格闘し、指先で身を取り出し、ようやく口に運ぶ。このひと手間が旅先の食卓を濃くする。海老とも蟹とも違う淡い甘みが、噛むほどにじわりと広がる。

「あわびバター焼き」は、蝦夷鮑らしい力強い弾力に、バターのコクを重ねた贅沢な一皿。磯の香りと乳脂肪の甘みが合わさり、和食の素材が一気に洋の顔を見せる。さらにリゾット付きというのが心憎い。鮑の旨味を含んだソースを米が受け止め、最後の一口まで余韻を逃がさない。

「帆立貝味噌焼き」は、いかにも青森らしい郷土の香りが漂う。貝殻の中で帆立、味噌、卵が一体となり、焼き目の香ばしさが湯気とともに立ち上がる。帆立の甘みを味噌の塩気が引き締め、卵のまろやかさが全体を包み込む。日本酒との相性は言うまでもない。

「きんきんの煮付け」は、まず呼び名がいい。一般的にはキンキと呼ばれる高級魚だが、青森では親しみを込めるように「きんきん」と呼ばれるそうだ。甘辛い味付けをまとった身はほろりとほどけ、皮目や骨まわりにはコラーゲンのぷるぷる感。脂の甘みもしっかり残っており、青森の夜に熱々の煮魚というだけで理屈が弱くなる。ご飯が欲しくなる危険なやつだ。

締めの「おにぎり」は、梅と鮭。魚介を食べ、酒を飲み、最後に米へ戻る。この着地がとてもいい。海苔の香り、米の粒立ち、具材の塩気。青森の名産をひと通り楽しんだあとに、こういう普段着の味が出てくると妙に沁みる。お土産まで持たせてくれるあたり、最後まで人懐っこい。

『はた善』は、青森の食材、地酒、大将の語り、土地の空気をまとめて楽しむ店だ。鮪、鮑、帆立、きんきんと、青森らしい名産をわかりやすく並べながら、そこに居酒屋らしい温度と距離感がある。大将から青森の歴史を聞き、地元の魚介をつまみ、冷えた竹筒の酒を飲む。なるほど、旅の記憶とはこうやって作られるのだ。ご馳走様でした。

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【カーサ・デル・チーボ】

八戸港の恵みと青森の大地を、イタリア料理という皿の上で再編集する一軒家レストラン『カーサ・デル・チーボ』。店名はイタリア語で「食べ物の家」の意味。2011年5月、東日本大震災直後の八戸にオープンしたという背景からして、この店の料理には土地への覚悟が滲む。池見良平シェフは東京で研鑽を積んだ後、ソムリエである奥様の故郷・八戸へ移住。都市の技術を持ち込みながら、視線は徹底して青森へ向いている。つまり、ここを一言で表すなら“八戸ガストロノミー”。海も山も畑も、八戸という土地をまるごと皿の上に乗せてしまう店だ。

料理の軸は、青森、特に八戸周辺の素材をイタリア料理の文脈で組み立てること。しかも、ただ地元食材を使うだけではない。乾麺に頼らず、パスタそのものに肝を練り込んだり、青森の猪をトルテッリとコンソメに展開したり、キンキの骨をせんべいにして皿の上で再登場させたりと、素材の輪郭を何度も描き直す。足りないものがあれば、探しに行く。なければ、取りに行く。そんな探究心が、皿の細部にまで宿っている。

まず「八戸産毛ガニ... More

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【麺屋 龍】

荻窪のラーメン戦線、その一角に構える『麺家 龍』。家系という巨大な文脈にありながら、どこか輪郭の整った一杯を出してくる店だ。店主・岡本氏は「武道家」で15年以上の修行を積み、若くして店長を務めた実力派。その後も「輝道家」で研鑽を重ね、2022年にこの場所で再出発。その歩みが、そのまま丼の中に表れている。

注文は「得ラーメン」。いわゆる全部入り。

スープは豚骨の旨味を芯に据えながら、口当たりは驚くほど滑らか。濃度はしっかりあるのに重たさに寄らず、乳化のバランスがしっかり整っている。醤油のエッジも丸く、飲み進めるほどに輪郭が立ち上がる設計だ。そこに酒井製麺の中太麺。モチっとした弾力がスープをしっかりと纏い、啜るたびに一体感が増していく。

海苔、ほうれん草、白髪ねぎという家系の王道構成。そこに燻製香をまとったチャーシューがじわじわとスープへ影響を与え、後半にかけて味の厚みが増していく。序盤は整い、中盤から後半にかけて旨味が層になる。

そして面白いのが、ご飯食べ放題というメニュー。思わず手を伸ばしたくなる装置で、20年前の自分なら迷わずボタンを押していただろうが、この日はあえて「並ライス」にとどめる。それでも家系において白飯は不可欠。スープを吸わせた海苔で巻き、ほうれん草を添え、そこに豆板醤をひと差し。この豆板醤の塩気と辛味が加わることで、豚骨のコクが一段と立ち上がる。

岡本氏のキャリアが示すのは、家系の型を守りながらどこまで精度を高められるかという問い。その答えが、この過不足のない濃厚さにある。突出した強さではなく、全体の設計で食べ切らせる一杯。荻窪で家系を選ぶ理由として、しっかり成立している一軒だ。ご馳走様でした。
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【ベンテンドー】

岐阜・柳ヶ瀬に店を構える『ベンテンドー』。創業は大正元年(1912年)、四代続く和菓子店。かつて賑わったこの街の流れを今に残すような存在で、店の佇まいにもどこか昔の空気が残っている。栗を軸に据えた、どこか岐阜らしい和菓子屋。

看板の「栗粉餅」は、蒸した国産栗を裏ごしして砂糖と合わせた“栗粉”を、つきたての餅にかけたもの。工程はシンプルだが、栗の風味をそのまま引き出すことに重心が置かれている。餅は柔らかく、水分を含み、栗粉を受け止める設計。口に入れると、ほろっと崩れる栗粉と餅のやわらかさがすぐに馴染む。甘さは強くなく、後に栗の香りが残る。

四代続いている理由は、この作り方を変えていない点にありそうだ。保存料を使わず、その日のうちに食べる前提も含めて、昔からの形をそのまま続けている。栗をシンプルに味わうにはちょうどいい一軒。ご馳走様です。
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【餅惣】

水の都・大垣にて、文久2年(1862年)創業という長い歴史を誇る老舗『餅惣』。この地に湧く豊かな地下水と共に歩んできた和菓子屋であり、その存在はもはや地域文化の一部と言ってもいい。名物は「水まんじゅう」。水に浸して提供するという独自のスタイルは、この土地だからこそ成立するものだ。

まずは、その「水まんじゅう」から。透明感のある生地に包まれた餡、その姿は涼そのもの。ひと口含めば、ぷるんとした弾力の後に、すっとほどける口どけ。ここで特徴的なのは、本葛に本わらび粉を合わせることで生まれるコシで、水中にあっても崩れない設計になっている点だ。冷たさは鋭さではなく、やわらかく身体に馴染む温度帯。甘さも穏やかで、喉を潤すように消えていく。

そして、その流れの先にあるのが「水まん氷」。今や夏の主役となった一品だ。八角形の木枡に盛られた氷は、ただの冷たさではなく白蜜をしっかりと含み、ひと匙目からやさしい甘さが広がる。その中に「水まんじゅう」が潜み、スプーンを入れれば、ふわりと崩れる氷とぷるんと弾む葛菓子の対比が際立つ。白蜜をまとった氷の甘みと、「水まんじゅう」のコシある食感が重なり、単調にならないリズムを生む。

160年を超える時間の中で、この店が磨いてきたのは、和菓子の技術以上に“大垣という土地”との関係性だ。清らかな地下水に恵まれ、「水の都」と呼ばれるこの地では、水は生活と文化の中心にある存在。その水で和菓子を浸し、冷やし、最良の状態で届ける発想は、風土から必然的に生まれたものだ。だからこそ訪れる価値がある。ここは、ただ美味しいだけでなく、大垣を食べる体験ができる一軒。ご馳走様でした。
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