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【一富久】
西成のまち角、どこか懐かしさを感じさせる紫の暖簾が風に揺れる。看板には味のある文字、焼けた色合い、ひと目で好きになる。50年以上も続いていると聞けば、もうそれだけで胸がじんわりする。そんな空気の中の持ち主がたこ焼きの『一富久』だ。
お皿に並んだたこ焼きは、まるまるとしていて、まるでお団子のような素朴な可愛らしさ。焼き色は薄く、見た目からして優しい。ソースもマヨネーズもかかっていない。自分で、二杯酢をちょいとつけて、七味をぱらり。なんてことないように見えて、この組み合わせが驚くほど合う。外は軽く香ばしく、中はふわっととろけて、タコはしっかりとした食感。酢の酸味が全体を引き締め、七味のピリ辛がアクセントになる。気づけば手が止まらず、ひとつ、またひとつと食べてしまう。
そして「たこスープ」。焼いたたこ焼きを出汁に浮かべるという、ちょっと変わったスタイル。でもこれが、なんだかほっとする美味しさ。焼きの香ばしさが残るたこ焼きに、出汁がじんわり染み込んでいく。口に入れると、ふわりと出汁が広がって、ほんのりタコの旨み。添えられた紅生姜のさっぱり感がまたいい。湯気の向こうに見えるやさしい景色。静かな昼下がりが、いっそうあたたかくなる。
そして、もうひとつのあたたかさが、お店を切り盛りするおばちゃんの佇まい。声を張り上げることもなく、常連ともにぎやかに笑うわけでもないのに、どこか人を安心させる空気がある。焼き台の前に立つ姿は落ち着いていて、注文にも「はいよ」と穏やかに応じる。そのやりとりが、ふとした拍子に心に残る。大阪のおばちゃん、という言葉には元気で賑やかなイメージがつきまとうけれど、ここにはもう少し静かな優しさがある。よく通る声よりも、やわらかい気配が印象に残る。
豪華さはないけど、思わずまた来たくなる。『一富久』には、そんなたこ焼きがある。やさしい味、やさしい景色、そしてやさしい人。それだけで、またふらっと行きたくなる。ご馳走さまでした。
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