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【渡辺料理店】
路地裏に咲く、グランメゾンの記憶

門前仲町の路地裏に潜む『渡辺料理店』。2022年に開業したこのビストロは、店名からもわかる通り、シェフ・渡邉幸司氏の個人名を冠している。その名前に込めた覚悟は、料理を一口食べれば明らか。かつて銀座レカンで料理長を務めた人物が、自ら市場に通い、肉を捌き、火を操り、皿を構成している。カジュアルの皮を被ったグランメゾン、その本質は真逆の方向を向いている。

「シャルキュトリーの盛り合わせ」はその象徴。白レバームース、ブータンノワール、ポークロースハム、パテドカンパーニュ。どれも一切の妥協なく、食感、香り、塩加減、すべてが精緻。グランメゾン出身のシェフが手作業で仕込むからこそ、ここまでの完成度に到達できるのだろう。

魚介の扱いも秀逸だ。「薪炙りカツオ」は、大葉のヴィシソワーズと合わせるという発想の妙。香りと温度差でぐっと引き込まれ、「岩カキジュレ」はクレソンと西洋わさびの鮮烈な余韻がたまらない。とにかく美味い、の一言が素直に出る。

「甘鯛うろこ焼」はブイヤベース仕立て。しっかりと炊き出された濃縮感、香ばしさ、火入れの妙——一皿に込められた技術と時間に、頭が下がるばかり。

スペシャリテは「オマール海老ビスクリゾット」。濃厚なビスクが米一粒一粒に染み渡り、甲殻類の旨味に包まれる歓喜。レアな火入れのオマールもふくよかで、しっかりとした食感と風味を残す。名物にふさわしい圧巻の仕上がりだ。

肉料理もまた圧巻。「イタリア仔牛リードヴォー」はムニエル仕立てで、香ばしさの中に透明感のある旨味が滲む。「ビゴール黒豚ロースト」は、雑味が一切なく、旨味だけが静かに広がる。どれもクラシカルな技法を現代的な感性で昇華させており、食べるたびに背筋が伸びる。

デセールの「ヌガーグラッセ」も印象的。ナッツやドライフルーツの食感がしっかりと残り、冷たさとともに口いっぱいに広がる濃厚な甘み。食後にしてはなかなかの食べ応えで、最後まで気を抜かせない。

予約困難店となるのも当然の完成度だが、幸運にも席が取れたなら、必ず何かを得て帰れる。カジュアルな見た目の奥に潜む、揺るぎないフランス料理への敬意と職人技。見冨右衛門の書籍『一流飲食店のすごい戦略』でも紹介させていただいたが、やはり素晴らしい。食べるほどに、この店の価値がわかってくる。ご馳走様でした。

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