晶華軒の「原盅佛跳牆」
蓋を持ち上げた瞬間、湯気とともに香りがふわりと立ち上る。海の気配と金華ハムの甘い塩香、さらに陳皮や冬菇の深い香りが混じり合い、思わず顔を近づけたくなる。
椀の中には、アキレス腱、干し魚の浮袋、鮑、刺参、干し貝柱。そこに新疆のナツメと蓮の実が静かに寄り添う。どれも存在感のある食材だが、互いに競い合うことはない。ハムの旨味が全体を引き締め、杜仲や党参の穏やかな香りが、味の奥行きを静かに広げていく。

まずスープをひと口。
やわらかな甘みが広がり、すぐに干し貝柱の旨味が追いかけてくる。続いて鮑の厚み、刺参の滋味、浮袋のとろりとした舌触り。アキレス腱はぷるりと弾み、噛むほどに旨味をほどく。濃厚な料理のはずなのに、後味は驚くほど軽い。重さではなく、旨味の層で満たされていく感覚だ。匙を運ぶたび、味が少しずつ変わり、香りがゆっすらと長く残る。
佛跳牆という名の通り、「仏も香りに誘われて塀を越える」と言われる料理。この一椀を前にすると、その言葉は決して大げさではない。
香りに引き寄せられ、気づけばもう一口。
そしてまた一口。気がつけば、椀は静かに空になっている。
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