艶をまとったとんかつに、心がほどけていくそれが、蔵前「すぎ田」での昼下がり。
真っ白なカウンターに腰をおろし、目の前に並ぶのは、オムレツ、ホワイトアスパラガス 、ロースソテー、そして主役のとんかつたち。無駄を削ぎ落とした所作と、音を立てず差し出される一皿に、自然と背筋が伸びる。
「とんかつは大衆食であり、日常のご馳走」そう語る二代目が守るのは、奇をてらわぬ王道。銅鍋の油は高温と低温を使い分け、肉と衣が隙なく結ばれるように揚げる。清潔で研ぎ澄まされた空間は、まるで割烹のような緊張感さえ漂う。
ウィスキー香るポークソテーもまた絶品で、品よく、かつ大胆。
ロースかつは、細く美しく切りそろえられた姿で登場する。極薄の衣をしっかりまとい、切り口からは、しっとりと艶やかな肉が覗く。サクリと歯を入れれば、肉の密度を感じる音がして、脂がするりと溶けていく。ひと口のための完璧な厚み、まさに“計算された幸福”だ。
ヒレかつは、赤身の旨味をぎゅっと閉じ込めた静かな主張。パン粉も香りも控えめで、肉の素直さが、まっすぐ舌に届く。
キャベツはふわりと軽やかに、練りたての芥子は鼻に抜ける刺激が美しい。小鉢のお新香は繊細な酸味をまとい、炊き立ての白米がふくよかな香りで包み込む。豚汁の湯気が、食事を終える頃には少し名残惜しく感じられる。
すぎ田のとんかつは、静かに語りかけてくる。「丁寧であることが、いちばん贅沢なのだ」と。日々の中の美しさを、そっと思い出させてくれる。

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