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【龍吟】
足し算の美学。

東京日比谷ミッドタウン、その奥まった一角に佇むのは、ミシュラン三つ星の名を十年以上にわたって守り抜く名店『龍吟』。専用のエレベーターを降りた先、飲食フロアの外に“たった一軒だけ”存在するその姿は、すでに料理の一部であるかのように特別だ。そこにあるのは、和食の伝統と革新が交差する空間。そして、山本征治という料理人の思想が色濃くにじむ舞台。

この店が提示する日本料理は、一般に語られる引き算の美学とは、異なる立ち位置にある。不要な味や雑味をそぎ落とし、素材の本質を際立たせる──それが和食の根幹であることに異論はない。だが『龍吟』は、そこに、あえて重ねることで、さらなる奥行きや広がりを生み出そうとする。香りを足し、食感を重ね、味の層を積み上げていく。素材を生かすための“もう一手”。その手数の中に、山本征治シェフの思想が宿っている。

『龍吟』は、日本料理の伝統をなぞる店ではない。出汁と素材で語る和食の形式に、「重ねる」という発想を持ち込んだその料理は、むしろ挑戦的だ。香りを足し、油脂を重ね、火入れを操る。その手数のひとつひとつが、味だけじゃなく“構造”をつくっていく。だからこそ、世界はこの料理に目を奪われる。三つ星を守り続けているのも、格式じゃなく革新によって。それが、今の龍吟であり、山本征治という料理人の立ち位置だ。引き算の美学ではなく、足し算の美学。ご馳走様です。
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