一本の鮪が語る「海の理」。
藤田さんの目が選ぶ、最良の一日。
鮨の名店で「これは藤田さんのマグロです」と聞けば、職人は皆、安心した表情を見せる。赤身は静かな艶を帯び、脂は重くならず、すっと舌に溶けていく。その一本に“海の理”が宿っていることを、誰もが知っているからだ。
藤田さんが見るのは、わずか三つ。
血合いの香り、筋の入り方、脂の芯と血の色。どれも小さなサインだが、そこに海流、季節、魚の運動量すべてが刻まれている。
「初夏と初冬は、まるで別の魚。自然には勝てんよ。」穏やかな声に、長年の経験が滲む。最良の一本とは、職人の技で作るものではなく、自然が渡してくれる“その日の贈り物”なのだ。
だから彼のマグロは、清らかだ。脂は軽く、赤身は凛とした芯を保つ。熟成させても味が崩れない。
鮨職人が藤田さんを信頼する理由は、美味しさだけではない。一本の魚に宿る物語が、そのまま皿の上で立ち上がる。
それが、藤田さんのマグロである。
#日本橋川口... More